事例紹介
サントリープロダクツ株式会社様
最新鋭の北アルプス信濃の森工場で天然水生産を支える!
~生産設備とAI異常検知システム間のノーコード連携~
サントリープロダクツ株式会社 様
概要
サントリープロダクツの次世代モデル工場として2021年5月に稼働を開始した天然水北アルプス信濃の森工場は、最先端の取り組みにより“止まらない工場”を目指している。 具体的には、「サントリー天然水北アルプス」の生産ラインを構成するさまざまな装置・機器の稼働データをリアルタイムに収集し、通常と異なる動きや傾向を監視するAI異常検知システム「Impulse ※」の導入だ。
※「Impulse」はブレインズテクノロジー株式会社が提供する異常検知ソリューションです。
工場内の設備には約80台のPLCが稼働しているが、さまざまなメーカーのものが利用されており、一部は海外メーカーのものも存在する。 これらの異なるベンダーやシリーズのPLCからデータ取得を行い、AI異常検知システムに橋渡しを行うのがたけびしのOPC UA対応通信ソフトウェア「デバイスエクスプローラ OPCサーバー(DxpSERVER)」、ならびにノーコードデータ連携ツール「OPC Spider」である。
<従来の課題>
・閾値監視の自動化では捉えられない異常の予兆発見を人に頼っており、発見の取りこぼしや属人化を防ぎたかった
<導入により目指した姿>
・異常の予兆発見や属人化をなくし、より迅速な異常検知、設備稼働率の向上を目指す
・取得データ変更などのシステム変更を現場担当者が自ら実施する
スマートファクトリーを体現する次世代モデル工場
サントリープロダクツは、サントリーグループの製造部門の中核を担う国内最大級の清涼飲料製造会社だ。その最新鋭の工場が、山々に磨かれた清冽な湧水を生かした「サントリー天然水北アルプス」の生産拠点である長野県大町市の天然水北アルプス信濃の森工場である。
「従業員の働きがいと生産性の向上を圧倒的高次元で両立させたものづくり(=ブランドづくり)を通して、お客様、地元、自社内に愛される場所になる」という工場設計のコンセプトを掲げ、「ブランド体験ができる場」「自然と一体となった生産」「スマートファクトリー」を体現する次世代モデル工場だ。
そうした中で積極的に取り組んでいるのが先進ITの活用である。同社 天然水北アルプス信濃の森工場 工務部門の大久保英剛氏は、「生産ラインで稼働している装置・機器からデータを集め、AIを用いてトラブルや故障につながる異常検知を行うことで設備の稼働率を高め、ひいては工場全体の生産性を向上することを目指しています」と語る。
天然水北アルプスの生産ラインには、多様な装置・機器が配置されている。大久保氏によれば、その生産プロセスは次のようになる。まず水源地から汲み上げた天然水をろ過・殺菌し、工場内で成型したペットボトルに充填してラベリングする。こうして出来上がった製品を所定の数だけまとめて梱包し、保管・出荷するというのが大まかな流れだ。
図:北アルプス天然水の生産工程
従来の工場でも稼働監視システム(SCADA)を用いて稼働状態の見える化を行い、異常検知のための閾値監視を自動化していた。しかし、閾値監視では捉えられない異常の予兆発見は人が行っていたため、取りこぼしの発生や属人化という課題があった。そこで、検知の精度を高め、従来より少しでも早く異常を検知することで設備稼働率を向上させるために、AI異常検知システムで設備のデータに通常と異なる傾向がないかを常時監視することにした。
とはいえ、すぐに完璧なAIのモデルが構築できるわけではない。AIに入力するセンサーデータを追加・変更したり、前処理演算などを工夫したりしながら判定精度を高めていく必要があるが、こうしたトライ&エラーを繰り返しながら都度システム変更を外部のシステム開発会社に依頼すると多大なコストと時間を要する。そのため、現場担当者自らがシステム変更を行える仕組みにする必要があった。
生産ラインの稼働データをAIプラットフォームと連携
これを解決するために同社が導入したのが、たけびしのOPC UA対応通信ソフトウェア「 デバイスエクスプローラ OPCサーバー(DxpSERVER)」とノーコードデータ連携ツール「 OPC Spider」だ。
「生産ラインを構成する各装置をコントロールしているPLCの独自通信をDxpSERVERが中継してOPC UA ※通信に変換します。OPC SpiderはOPC UA通信で各装置のデータを取得し、AI異常検知システムが受け取れるフォーマットに変換してクラウド上で稼働しているAI異常検知アプリケーションに引き渡します」と大久保氏は、今回構築したシステムの概要を説明する。
※OPC UAは産業分野の業界標準プロトコル
DxpSERVERとOPC Spiderのどちらも、システム構築を担当したベンダーから推奨された製品だ。DxpSERVERは、幅広い製造業で標準的に使われているOPCサーバーで、国内外で多数の採用実績がある。
またOPC Spiderについては、「弊社内にも情報システム部門をはじめITの専門家がたくさんいますが、今回の取り組みで実現したかったのは、生産現場の担当者自身がデータやAIの活用を主導し、日々の改善活動を加速していくことです。その観点から、工場内のさまざまな装置・機器から集まってくる多様なデータの中からAI異常検知システムに送るデータをGUI上で定義し、簡単に連携させることができるOPC Spiderを選択しました」と大久保氏は話す。
図:AI異常検知システムの概要
生産現場の担当者がより価値の高い改善活動に注力
こうして導入されたAI異常検知システムは、信濃の森工場の始動とともに一部の設備で運用を開始しており、天然水北アルプスの生産ラインに異常がないか日々監視している。
「信濃の森工場は操業から2年であり、設備の劣化もまだあまり進行していません。そのため同システムが活躍した場面はまだ多くありません。現在は、トライ&エラーを重ねながら、監視対象設備を徐々に拡大している段階です。監視対象設備が増えることで、担当者がより価値の高い改善活動に時間を割けるようになることを期待しています」(大久保氏)
AI異常検知システムのノウハウを他工場にも横展開
DxpSERVERやOPC Spiderによるノーコードデータ連携のメリットを生かし、今後もAIモデル作成に用いるデータを試行錯誤しながら継続的なブラッシュアップを行うことで異常検知の精度向上を図っていきたいと、大久保氏は今後の抱負を語る。
同社は2024年3月に向けて天然水北アルプス信濃の森工場の生産ラインの増設を予定しており、生産能力は現在の2倍以上の年間3300万ケースとなる見込みだ。そうした中でAI異常検知システムもますます重要度を高めていくことになる。
一方で同社は、信濃の森工場で先行して培ったAI異常検知システムのノウハウを他工場にも横展開していくことも検討している 。AI異常検知システムの展開を足掛かりとして、同社の全社的なスマートファクトリー化が今後も進められていく。
サントリープロダクツ株式会社
天然水北アルプス信濃の森工場
工務部門
大久保 英剛 氏